すっかり日も暮れ、涼しくなった19時半。待機していた家族連れの観客が、小さな子供に向かって「次はCreepy Nutsだよ。前の方に行く?」と話しているのが聴こえてきた。微笑ましいのと同時に、彼らの知名度の高さに驚く。

そんなことを思っていると、WATER STAGEにオープニングのSEが鳴り響く。プツッとSEが途切れると、とR-指定とDJ松永が登場。歓声が上がると、R-指定が「こんばんは。最後やで? 最後にもうひと盛り上がり、俺らと夜更かしできる奴両手上げろ!」とシャウトし、「よふかしのうた」でライブの幕が上がる。後方で座っているオーディエンスたちも含めほとんどの人が両手を上げ、一気にボルテージはMAX。Creepy Nutsの2人も気合十分、といったところ。途中、〈Lucky Fesの初日で 任された大トリという修羅場〉とリリックを変えるサービス精神もあっぱれだ。

スタートダッシュを決めると、「次、もう一発お前ら全員の声きかせてほしいんやけど、イケる? 簡単やから真似してな」とR-指定が呼びかけ、コール・アンド・レスポンスの練習へ。会場から〈Yeah, yeah, yeah, yeah, yeah〉と大きなレスポンスが巻き起こると、そのまま「堕天」へ。さらに、「夏フェスやし、タオル回してみよか」という呼び掛けに応えるかのように、一斉にタオルが宙を舞っていく。

続くのは、「2way nice guy」。「飛び跳ねろ!」という言葉を合図に、WATER STAGEが大きく揺れ、サビでは手を左右に振ったり、上下に降ったりと、盛り上がりは天井知らず。それを見たR-指定は「ええやん、Lucky Fes!」とどこか満足気だ。さらにDJ松永の超絶スクラッチも炸裂。まさにアーティストと観客、一体となってステージを作っていた。

ここで、MCタイムへ。暗転の間、会場からはR-指定とDJ松永の名前を呼ぶ声が止まらない。それを聞いたR-指定は「もっと聞かせてくれ!」と煽り、続けて「ここ何年か、こんな状況がウソみたいにパッタリなくなってもうて。大声で歌ったり、レスポンスしたり、野次飛ばしたりできるこの状況は、みんなでいろんな工夫して時に失敗したり、間違えたり、ぶつかったりして勝ち取ったと思うから。今日は初日やけど、思う存分“当たり前やったこの光景”をみんなで味わい尽くそうぜ!」と熱く語っていく。

熱いMCが続いていくと思いきや、急に「しかし、ASKAさんの後に出てくるってどういう……」と、戸惑いを見せ笑いが巻き起こる。DJ松永も「そうだよなー。トリにふさわしすぎるよな、ASKAさんがな」と賛同。すると「みんな1回『YAH YAH YAH』で終わった感じになったんやろ?」とR-指定がさらに笑いを誘った。

ここでスイッチを入れるかのように「今、俺の姿を見ておそらく日本のほとんどの人はラッパーやなってわかると思うんです。なぜなら、俺が曲とかフリースタイルとか、色んなところで吐いてきたパンチラインとか言葉が、俺の顔見たらみんなの頭に思い浮かぶようになってるんですよ。俺の体は自分の吐いてきた文字で真っ黒に埋め尽くされてるんです。あいにくタトゥーを入れる隙間が1ミリもないくらい、俺の体は文字だらけになっております」と語るR-指定。続けて「そんな俺の体、俺のスタイルのこと、日本のある有名な怪談になぞらえてこう呼ばせてもらっています」と言うと、「耳なし芳一Style」がスタート。グリーンの照明がどことなく怪談を彷彿させ、クールなパフォーマンスが炸裂していた。

雰囲気をそのままに「生業」でラッパーとしてのスタンスを顕示すると、ここで彼らの代表曲とも言える「かつて天才だった俺たちへ」が飛び出す。オーディエンスたちの手が上がり、大合唱が巻き起こり、クラップが鳴り響き、再び会場が熱を帯びていく。途中DJ松永がスクラッチをキメると、R-指定は「今の天才でしたわ!」と称賛。会場からも「フー!」と歓声が上がっていた。

ここで、再び会場からはR-指定とDJ松永の名前を呼ぶ声が。しかし、Creepy Nutsは一向に反応しない……と思っていると、R-指定が「応えたれや、ひと言くらい(笑)。お前がコミュニケーション取る時間取ろうかなってその間水飲んで休憩しよかな思ってんけど、ずっと黙っとる」。DJ松永が「黙ってるほど(歓声が)もらえるかもって」と笑うと、すかさず「甘えとる」とツッコまれていた。

続けてR-指定は「静寂を埋めてくれる野次とか歓声。なかったっすからね、ほんまに去年まで。でも、ないながらも工夫して楽しむ術をこの何年かで身につけた。ライブを楽しむっていう筋肉がめちゃくちゃ付いたわけです。そして声が出せる状態が戻ってきた。この『Lucky Fes』、去年も出たけど去年とはやっぱり違います。声出せるようになって1発目がこれやで。来年、再来年、どうなっていくんやろな? もっともっと楽しくなっていくんやろうな。俺らもお客さんも、『Lucky Fes』も……伸びしろしかないですわ」と語り、「のびしろ」へ。「手でも音出せるぞ! 歌えるやつは一緒に歌ってくれ!」とシャウトすると、会場からも〈のしびろしか無いわ〉と歌声が聞こえてくる。〈『Lucky Fes』、お前らまだのびしろしかないわ〉と締めくくると、大きな歓声と拍手が巻起こった。

一体感をこれでもかというほど味わうと、「『Lucky Fes』初日、楽しめたってヤツ、どんくらいいます? 歌わせたりな、レスポンス返ってきたり、一緒に飛んだり、合唱したり、叫んだりするのが合法的にできるってめっちゃ気持ちよくない?」という言葉で「合法的トビ方ノススメ」へ。大きな歓声とともにラストスパート。「声上げろ!」、「両手のひら見せてくれ!」という言葉に応えるかのように、最後の最後まで最高を更新し続けたライブであった。最後は深々とお辞儀。「最高でした。ありがとう!」と笑顔でステージを後にし、ライブに幕を下ろした。

セットリスト
1.よふかしのうた
2.堕天
3.2way nice guy
4.耳無し芳一Style
5.生業
6.かつて天才だった俺たちへ
7.のびしろ
8.合法的トビ方ノススメ

テキスト:高橋梓
写真:清水ケンシロウ/team SOUND SHOOTER