暑さが落ち着いてきた18時過ぎ。『Lucky Fes ’23』に出演するレジェンドアーティストの一人、ASKAのステージがWATER STAGEで始まる。……はずだった。というのも、突然の機材トラブルが発生。フェスにトラブルは付き物ではあるのだが、集まったオーディエンスたちは今か今かとASKAの登場を待ちわびている。そこに颯爽と本人が登場。「ご覧の通り、機材トラブルがありまして。ギターの音が出ないどころか、電源が落ちてしまっていまして。時間がかかってしまっていますけど、必ず歌わせていただきますのでもうしばらくお待ちください」と、挨拶をしに出てきてくれたのであった。流石の気遣いだ。
トラブルが解消され、定刻から30分遅れでライブがスタート。「お待たせしました!」と再びASKAが登場すると、会場中から大きな拍手が巻き起こった。そんな中、聴こえてきたのは、日本人のほとんどが知っていると言っても過言ではない「SAY YES」。すでに温まっていたWATER STAGEが、さらに熱気を帯びていく。しかし、ASKAの涼し気な歌声に誘われるかのように、心地よい風が拭き始めたから不思議だ。
大きな拍手に包まれて大ヒット曲を歌い終えると、アカペラで「太陽と埃の中で」を歌い始めるASKA。その美声に聞き入るオーディエンスたち。バンドがサウンドを奏で始めると、ハッとしたかのように大きなクラップが巻き起こっていった。ASKAはステージをじっくり歩き回り、待っていてくれた観客たちに歌声を丁寧に届けるように歌い紡いでいく。時折笑顔も見せており、彼自身ハプニングを含めたステージを楽しんでいる様子だった。
いつの間にか日が暮れ始めたところで、小休止。「暑い中ごめんね。お付き合いありがとうございました」と改めて観客を慮る挨拶をすると、「なかなか茨城に来ることができなくて。いや、(来たい)気持ちはあるんだよ?」と笑いを誘う。さらに「そんなことないかな。『笑って歩こうよ』って曲を作って、そのMVをひたちなか市で作りました。尾野真千子さんが出演してくれてますので、YouTubeで確認しておいてください」と、しっかり告知も忘れない。
ここで、「『笑って歩こうよ』とは違うんですけど、似たような曲を」と語って始まったのは、「はじまりはいつも雨」。ASKAの優しく耳に心地よい歌声が会場を包み込んでいく。大ヒットナンバーが続いたあとは、2021年にリリースされた「PRIDE」へ。優しい歌声であるのに、とにかく声の圧がすごい。思わず「マイク、いる!?」と思ってしまうほどの声量で、レジェンドがレジェンドたる所以を垣間見た。そんな“ASKA節”が詰め込まれた美しい音色に、観客は心地よく体を揺らして音楽に身を委ねていた。
ここまで観客をうっとりさせるような壮大でなステージが繰り広げられてきたが、ラストは「YAH YAH YAH」が飛び出す。ASKAが拳を突き上げたことが合図かのように、座っていた観客たちも一斉に前方に駆け出していく。その場にいた全員が右拳を掲げ、大合唱。“一体感”とはこういうことを言うのだろう。ASKAの楽しそうな表情も実に印象的なラストであった。
演奏時間約25分。コンパクトなステージではあったが、それを感じさせないほどしっかりと観客の心の琴線に触れ、感動を提供していったASKA。レジェンドアーティストたる実力と、圧倒的存在感がこれでもかと感じられたライブであった。
セットリスト
1.SAY YES
2.太陽と埃の中で
3.はじまりはいつも雨
4.PRIDE
5.YAH YAH YAH
テキスト:高橋梓
写真:清水ケンシロウ/team SOUND SHOOTER